飲食店における「おススメ」について書きます。
メディアの影響でしょうか、おススメはなんですか?と
尋ねられる事がけっこうあります。
その際の私の答えは
「ございません」もしくは「お客さんの好みがわかればおすすめしますが」です。
何故そんな嫌味とも受け止められるような答えをするのでしょう。
そもそも「おススメ」とはなんでしょう。
私が思うに、寿司屋や居酒屋で
「大将、今日のおすすめは?」
「そうですねぇ、今日は活きのいいカツオが入ってますよ。」
「いいねぇ、他には?」
「あとは珍しいところでトキシラズなんていかがでしょう」
これが正しい「おススメ」の姿じゃないでしょうか。
つまり、普段はメニューにないけれども、たまたま良いモノが
手に入ったので、是非食べてもらいたい。
また、一年のうちで、ほんのわずかな期間にしか出回らないから、
これを逃すと来年まで待たなければならない。
そういった特別な献立を、「おススメ」と呼ぶんじゃないでしょうか。
いつものメニューにしても、代金をもらって提供するのですから、
考え抜いて試行錯誤した上で商品を作成しているはずで、
通常献立にのせている商品だって「おススメ」といえば「おススメ」です。
それでもさらに「おススメ」するわけですから
「おススメ」するだけの理由がなければなりません。
もっと主観的に述べさせてもらえば、
私が考えて作りだしたタルトは、
言ってみれば子供のようなモノです。
親の立場で子供に優劣はつけられません。
でも、個性は話す事ができます。
ですから「お客さんの好みがわかれば」とお伝えします。
話がずれてしまいました。
先ほど述べた類のやりとりがテレビで放送され、
それを見た一般の視聴者が真似をしはじめました。
ところがそのやりとりが間違った方向に進んでしまった。
店が「おススメ」を逆手にとり、特別な物などないのに
店側の売りたいモノを「おススメ」と表示し、
客ものせられて「おススメ」だから間違いない、と注文する。
店としては原価の低い、利益率の高いものがたくさん売れた方が
そりゃ嬉しいでしょう。
そしてその商品が客側のニーズに合っていれば問題ありません。
しかし、全部が全部そのような商品ではない。
だいたい真っ当な「おススメ」ではないものを
「おススメ」して買ってもらったとしても、
期待を上回れずに、「おススメされたけど、こんなもんか」
と思われたら店側にとってもマイナスでしょう。
それを買わされた客はもっとマイナスです。
だから店側は安易に「おススメ」などと口にしては
いけないと私は思っています。
それからもう一つ理由がありまして、
先入観を与えたくないのです。
口コミというのは来店動機で大きいウエイトを占めています。
口コミして下さる方は大変ありがたい。
それを聞いた方が、それじゃあ行ってみよう、と
行動に移して下さることも非常に嬉しい。
しかしながら、感じ方というのは人それぞれです。
味が口に合う人もいれば、合わない人もいる。
雰囲気が合う人も合わない人もいる。
お客さんには情報を鵜呑みにしてほしくない。
その時の自分の感性で商品を選んでほしい。
そう考えている私がその情報源になっては話にならないでしょう。
ですから私は、正当な意味での「おススメ」以外は
しないようにしております。
誤解のないように申しておきますが、
「おススメ」のやり取りが、店と客とのコミュニケーションの方法の
一つである事は認識しております。
こういった会話が糸口となって相互の信頼が築かれていくこともある。
しかし、作り手である私がもっともやらなければいけないのは
売る努力ではなく、作る努力であるはずです。
私はよい商品を作ることで信頼していただく。
これはタルト作りをする前にウエイターとして
売る努力をしていた私の経験から導きだした、
今現在の私の考えです。
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